水は低きに流れる
川はやがて、海に注ぐ。
…コレ、誰もが知っているいわば“常識”ですよね。
しかし、実際に川が海に注ぐところをご覧になったことはあるでしょうか?
「一級河川」と呼ばれるような大河であれば、
海に注ぐ瞬間もさぞや勢いよく流れていくのだろう…と思われるかもしれませんが、
拍子抜けするくらい穏やかなもの。
川幅はグッと広くなり、豊潤な水をたたえた流れは
非常にゆったりとして安定感があります。
そして、その水の流れを、母なる海が静かに受け入れる…。
下流=低い位置にある水というのは、多くのものを受け入れ、
混じり合わせて一つのものにしてしまうという力を持っています。
だからこそ老子は、「水」を理想の在り方として
繰り返し教え説いていたのでしょう。
おそらくそこに、力を持ちながらも偉ぶらない
“謙虚さ”を見出していたのではないでしょうか。
あの穏やかな情景を見ると、老子がなぜ「水」にこだわっていたのか
その理由がおぼろげながら納得できるハズです。
下にいるからこそ見えてくる「大事なこと」
低いところに流れ込み、様々なものを受け入れる。
そのような“水”の性質に、一種の“謙虚さ”を見出していた老子。
彼は、さらに次のような言葉で、人々にも「謙虚であれ」と教えていました。
「大者宜為下」
(大いなる者は宜しく下ることを為すべし)
強大なものこそ下へ下へとへりくだることが大事である。
…この言葉に込められているのは、
「社会的に強い力を持った者こそ、謙虚であるべし」という戒め。
ともすれば人間は、権力や富の力=自分が強くなったと誤解して
驕ったり偉ぶったり、他人をないがしろに扱ったりしてしまいがちなもの。
しかし、偉くなればなるほどへりくだって
“下”に身をおいたほうが世の中のことがよく見えるよ、
だから謙虚でいなさいよ。と老子は教えていたのです。
確かに、社会的な制度の多くは、社会的弱者、つまりは
「社会的に不利な立場」に置かれている人のために整備されているものが多いですよね。
これらの制度が、対象となる人々の生活にどれだけ役に立って
どんな部分がまだまだ不十分なのか?、
それを“実感として”つかむには、その制度を制定する政治家自身が
「下へ」降りて世の中を見るのが一番です。
実はしたたかな戦術の一つでもある?
強い立場の者ほど、謙虚であれ。
…そのように教えていた老子ですが、実はそこには、
老子らしい“したたかな”一面も見てとれます。
すなわち、へりくだって下にいたほうが、時には有利な場合もあるということ。
例えば、いつも男性の三歩後ろを歩いているように見える女性も、
実は、男性を自分の手のひらの上で思いのままに転がしている。
女性が下手に出ているからこそ、男性は気持ちよく居られる。
だから家庭が安定する…。
これは、一見へりくだっているように見えても、
「実は女性のほうが何枚も上手だ」
という良い例ですよね(笑)。
謙虚にしているからこそ、相手を自分のものにしてしまうことができる、
形勢を逆転することができる…。
老子の言う“謙虚”とは、そのような“したたかな賢さ”をも含んだ謙虚さなのです。
そのように考えると、
「なんでいつも私ばかり我慢しなくちゃいけないの!」
「男だからって、偉そうに(怒)」
という奥さまのお怒りも、少しは鎮まるのではないでしょうか(笑)
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