老子の言葉をわかりやすくお届けします

感覚を遮断することの意味

老子は、「塞其兌、閉其門、終身不動」という言葉で、
常に外界の情報に振り回されることのリスクを指摘しています。
感覚器官を塞ぎ、知識の出入り口を閉じておけば、
外界からの余計な情報に左右されて疲れ果てるようなことはない、と言うのです。

 

しかし、現代社会に生きる人々は言うでしょう。
「そんなんじゃ、世の中に取り残されてしまうよ」
「そんなじゃ、就職も出世もできないよ」

 

しかし、本当にそうでしょうか?
一日中、TVをつけっぱなしにしていて、どれだけの有益な情報を得られますか?
LINEやTwitterに拘束されて、疲れませんか?
Facebookをチェックすることが、知らず知らずのうちに義務化していませんか?
本当に必要を感じていますか?

 

ひょっとしたら私たちは、「便利だ」と錯覚しているだけで
本当は、雑多で無用な情報に振り回されているだけなのかもしれません。

 

老子は、上記のような戒めに加えて、
ごく小さな真実を知ること=明智を説いています。

母なる自然の元で生きよ

「見小日明、守柔日強」
(小を見るを明といい、柔を守るを強という)

 

ごく小さな真実を知ることを明智といい、柔弱を保つことを本当の強さと言うのだ。
…このように老子は、「多くを知る」ことではなく
少なくても小さくても「本当のこと」「真実」を知ることが重要だと説いています。

 

つまり、有益ではない膨大な情報を100得て身も心も疲れ果てるくらいなら
本当の“真実”を一つ知ったほうが良いということですね。(それが「明智」)
そしてその真実とは、老子にとっては「道」だったわけです。

 

「道」とは、老子思想の根幹を成すもの。
この世のあらゆるものの根源になるもので、
本来は人間が名前をつけて呼ぶことさえおこがましい、“大いなる”ものです。

 

…正直、なところ、
「老子の思想は抽象的でよく分からない」「要するに明智って何?」
という印象をお持ちの方も多いのでは?

 

簡単に言えば、「種から花が咲き、果実が実り、またそれを鳥が食べて種を運び…」
という“自然”のありのままの流れを知ることが最も大切だということです。
私たち人間も、元々は受精卵から出発するわけで、
それを繰り返して子孫を残してきたわけですよね?

 

そのような一連の流れ、人智の及ばない「自然の摂理」。
これを知ることが明智であり、
余計な情報に心乱される前にまずは明智を大切にしなさいよ、
というのが老子の基本的な教えなのです。

本当の強さとは?

明智に加えて、老子は、「本当の強さ」についても繰り返し述べています。

 

老子が説く「強さ」とは、一般的に言われている「強さ」の形とは少々違っています。
具体的には、「固いものよりも柔らかいものが強い」。
剛強なるものよりも、柔弱なるもののほうが強いというのです。
そして、その最たるものとして、老子は「水」を挙げています。

 

「天下莫柔弱於水」
天下に水より柔弱なるは莫し。

 

この世界に水よりも柔らかくしなやかなものはない、老子は考えていました。
実際、水には、少しずつ滴って岩盤に穴を開けるほどの強さがありますし、
山を崩して地形を変えてしまうほどの圧倒的なパワーも秘めています。
しかも、どんな色にも染まる柔軟性も秘めている…。
これこそが、老子の理想とする「真の強さ」であり、理想の姿だったのです。

 

小さな真実を知る「明智」と、水のようにしなやかな「強さ」。
これらさえ備えていれば、生きることに不安など感じないはず…。
情報過多で疲れを感じたら、老子のこの教えに立ち帰ってみてください。
少し、肩の荷が下りてラクになるのではないでしょうか。