老子の言葉をわかりやすくお届けします

さりげなく部下の長所を生かす

「理想の上司」の定義は、人によって異なるでしょう。
「指導力のある人」と言う人もいれば、
「やっぱりリーダーシップでしょう!」と言う人もあり。
「“情”じゃない?」と言う人もいれば、
「正直こそ全て!」と言う人もいるでしょう。

 

天に与えられた「ありのまま」を活かすのが一番大事だよ。
…そのような老子の教えは、人を教育する場面でも生きてきます。
すなわち、良きリーダーとは、部下の長所と短所を鋭く見抜き、
その部下が「ありのまま」に長所を発揮できるように仕向けることができるのです。

 

よく、「○○部長のおかげでチャンスをもらった」といった話を耳にしますが、
老子の思想からすれば、それはリーダーの在り方としてはやや不十分。
「○○のおかげで」と思わせている時点で、リーダーとしては失格なのです。
その部下が、身の丈以上の無理をすることもなく
ありのままに全力を尽くしていたら、それが実績につながった。
これが理想というわけです。

 

完全に放置しておくのでもなく、余計に手を加えるのでもない。
言い方を変えれば、見ていないフリをしていながら
それでいて全てを把握しておかなければいけないわけです。
これは、簡単なようでいて非常に難しいことですよね。

賢く立ち回れる器用さがカギ!

政治の世界を見れば、白い物を「黒だ!」と言い張って
国民を欺く人物も多いもの。
老子が言うように、「ありのまま」に部下を活かす能力も大事ですが、
部下に対して正直であることもまた、リーダーに欠かせない素養
と言えるのではないでしょうか。

 

実は、孔子の教えが記された『論語』の中に次のような言葉があります。

 

君子は貞にして諒ならず

 

これは、君子は正しいけれどもバカ正直ではないということ。
わかりやすく解釈すれば、世の中は白or黒で割り切れることばかりでなく
グレーゾーンも多いのだから、リーダーたる者には、
いろんな状況に柔軟に対応できる器用さが必要なんだよ、ということでしょう。

 

老子とは対照的な思想として知られる儒家思想ですが
(というより、老子が一方的に批判的だった?)
リーダたる者に求めるもの(すなわち、老獪さのようなもの)は
相通ずるものがあるように感じられますね。

なんだかんだ言っても正直者が一番?

人間の長短を正確に見抜き、その長所を伸ばせるようにさりげなく仕向ける。
部下に対して誠実でありつつも、バカ正直ではない。
どんな状況にも、(老子流に言えば)水のように柔軟に対処できる。

 

つまり、老子や孔子の思想をひっくるめてまとめてみると、
人間の本質というものをよく理解したクレバーな人間でなければ
リーダーとしてはふさわしくないと言えるのではないでしょうか。

 

とはいえ、会社であろうが政治の世界であろうが、リーダーだって人間です。
ピンチに立たされれば、
「他人よりも自分やその家族を守りたい」
「今の地位にしがみつきたい」
と思うのは当然のこと。

 

他者を出し抜きたい。周りに認められたい。
…そんな私利私欲が全くない人間など、
存在しないと言っても過言ではないでしょう。

 

それでも、そんな自分もひっくるめて「人間」というものを肯定し、
それでいて我欲に執着せず
部下のために、世の中のために尽くせる人。
ある意味では、リーダーという責任に対してバカ正直なくらいの人
リーダーとしてふさわしい人物なのではないでしょうか。