老子の言葉をわかりやすくお届けします

強さの対極にあるものを選ぼう

世の中のものは、ほぼ全て、「強と弱」、「陰と陽」のように二つに分類されます。
例えば、強いものと弱いもの。明るいものと暗いもの。
硬いものと柔らかいもの、男と女…。

 

現代社会においては、有利な立場=強いほうを選んだほうが
なにかとメリットが多いように思われがちですが、
老子は「あえて弱い方を選びなさい」と教えています。

 

なぜなら、弱い方に身を置くことで、
強い方に身を置いている時には見えなかったことが見えてくるから。
確かに、高収入で経済的に何一つ不自由ない生活を送っている人には
「金銭的な問題で進学できない」とか「老後が心配だ」
…と嘆いている人の気持ちが“実感”としては分かりませんよね。

 

ケガや病気をして初めて、駅のエスカレーターのありがたみに気付くこともあれば、
妊娠をきっかけに、妊婦や小さな子供を見る目が変わったという人もいるでしょう。
「なぜ世の中が、ここまで“弱者”への支援にこだわるのか?」
実際に貧乏になったことがある人でなければ、子育てをした人でなければ、
本当の意味でその理由は分からないのです。

 

老子によれば、そういった“弱さ”を知っている人こそが、「最強」。
強さの対極にある「弱者」とされる側にいて、
全てを受け入れられる“器”を持っている人こそが、
世界の隅々を理解できる人であり「最強」の存在だと言うのです。

天下の谿と為る

「知其雄、守其雌、為天下谿」
(その雄を知りて、その雌を守れば、天下の谿と為る)

 

雄の強さを知った上で、雌の弱い立場に身を置くなら、
天下の全てが集まる谷間となるだろう。

 

…ちょっと抽象的で分かりづらい例えですね。

 

老子によれば、強い者の前ではみんな警戒心を持ってしまう。
一方で、弱い者の前では誰もが警戒心をなくし、
ありのままの全てをさらけ出すことができるのだといいます。

 

そういう人は、色々な物が運ばれて溜まっていく“谷間(谿)”のような存在になれるよ、
弱いも強いも含めて、世界の全てを理解できるようになるよ…。
そういう人こそが、「最強」であり、「聖人」と呼ぶにふさわしい人だよ。
…老子はそのようなメッセージを含ませていたようです。

 

「どうすれば自分の“得”になるか」
…と、何事も自分にとって有利なほうを選びがちな私たちですが、
老子の教えに従うのであれば、
あえて自分に不利なほうを選んで生きたほうが、結果的には自分を強くすることができる
と考えられます。

赤ん坊こそ理想の姿

老子は、「“天下の谿”になるような立場を守れる人なら、
聖人として不変の“徳”が備わり、赤ん坊の状態に戻れるだろう」
…と説いています。

 

つまり、老子は、赤ん坊=最強の存在と考えていたんですね。
実はこれ、ニーチェの思想にもつながりますし、
タロット占いにも似たような考え方が生かされています。

 

赤ん坊は、一見、何もできない、何も手にしていない存在ですよね。
ミルクを与えられなければ生きていけませんし、
自分一人ではトイレに行くことすらできません。

 

しかし、あの小さな体には、多くの人を惹きつける強いパワーを秘めています。
本人が何も言わなくても、周りの大人たちは赤ん坊に尽くしますよね?
それでいて、赤ん坊に「遣われている」とは思わない。

 

ありのまま、何もしていないのに大人たちに尽くされ、守られ、
最も弱い存在でありながら、実は最強の存在…。

 

この姿こそが、老子の唱えた理想の在り方を言えるのかもしれません。